いそべ圭太  自由民主党 横浜市会議員(保土ケ谷区選出) 公式ホームページ

2016.05.17

孤立を防ぐ地域づくり特別委員会 中間報告書

4月20日に、私が委員長を務める「孤立を防ぐ地域づくり特別委員会」の最終委員会を開会しました。

最終委員会とは、横浜市会では第2回定例会(5月市会)で所属する委員会の変更が行われるのが通例となっています。そのため、4月に行われる委員会を現構成での最終の委員会と位置づけています。
特別委員会では、中間報告書を取りまとめ、本日の本会議で議長宛に「中間報告書」を提出しましたので、ご報告いたします。

この問題は、切れ目なく継続して行っていかなくてはならない問題でありますので、委員会、委員長としての取り組みは一旦まとめましたが、引き続き取り組んでまいります。また、最終委員会では、以下の通り委員長として挨拶をしました。

尚、本日の本会議にて委員会の改選が行われ、委員長としての任期が満了しました。

【最終委員会挨拶】

本委員会は、設置されて四年目となる委員会でございますが、今年度は、「横浜市における子供の貧困の予防・解決に向けた取り組みの方向性について」を調査・研究テーマとし、一年間議論を重ねてまいりました。調査・研究テーマに関連する本市の施策について、事業所管局より説明を聴取し、母子生活支援施設カーサ野庭、及び金沢区 寄り添い型学習等支援事業 横浜いろは塾の視察も行いました。また、会派によっては他都市の事例の視察を行っていただいたほか、首都大学東京の阿部教授にも参考人としてお越しいただいて意見聴取を行うなど、精力的に活動を行い、子供の貧困対策という難しい課題に対して委員の皆様から多くの貴重な御意見をいただきました。この度、山田・山本両副委員長をはじめ、委員の皆様方の御協力によりまして、今年度の本委員会の報告書を提出する運びになりましたことを、心より感謝申し上げます。本構成のメンバーにおける議論は報告書の提出をもちまして、ひとまず終了という形になりますが、いただいた御意見の中にもございましたとおり、子供の貧困の背景にはさまざまな要因が複雑に絡み合っているため、子供が置かれている環境を直ちに改善するのは並大抵のことではありません。今後、本市をはじめ、全国的に行政の子供の貧困対策が本格的にスタートしてまいりますが、我々は、よりよい施策を推進していくために今後も議論を続けるとともに、地域住民の代表として、地域の子供たちのどのような小さなSOSにも気づき、耳を傾け、子供たちの未来のために行政と連携してこの問題に取り組んでいかなければならないと考えております。最後になりましたが、円滑な委員会運営に御協力をいただきました委員の皆様、並びに、こども青少年局・健康福祉局・教育委員会事務局の皆様に重ねて御礼を申し上げまして、正副委員長を代表しての挨拶とさせていただきます。1年間、誠にありがとうございました。

【孤立を防ぐ地域づくり特別委員会中間報告書】

孤立を防ぐ地域づくり特別委員会中間報告書

1 付議事件

身近なつながりや支え合いにより社会的孤立を防ぐ地域づくりの推進に関すること。

2 今年度の調査・研究テーマ

横浜市における子供の貧困の予防・解決に向けた取り組みの方向性について

3 テーマ選定の理由

学齢期の子供世代における問題に目を向けると、長年にわたる経済の停滞や社会構造の変化の影響を受けた親世代の生活基盤が不安定になったことによる、子供世代の貧困が挙げられる。

社会がこの問題を認識し始めたのは比較的最近のことであるが、国際的にみても日本の子供の相対的貧困率は厳しい状況にあり、国においては平成26年に子どもの貧困対策の推進に関する法律を施行し、続いて、子供の貧困対策に関する大綱を策定している。

そこで、当委員会も子供の貧困対策について議論することは時宜にかなうものであり、本市における子供の貧困の予防・解決に向けた取り組みの方向性について調査・研究を行うこととした。

4 委員会活動の経緯等

(1)平成27年6月3日 委員会開催

ア 平成27年度の委員会運営方法について

本委員会の付議事件を確認後、意見交換を行った結果、次回委員会において今年度の委員会運営方法を決定することとした。

【委員意見概要】

・ 高齢者や障害のある方、子育てをしている家庭にも、孤立している状況の方たちはたくさんいらっしゃると思うが、その中で、家庭も含めて小さい子供たちの部分にも目を向けて、例えば虐待やそれとつながる貧困に視点を当てて調査・研究できればいいと思う。

・ これから社会を担っていく若者が孤立してしまい、活動ができないとなると、本当に社会としても損失だと思う。子ども・若者白書には不登校や子供の貧困や就学援助率の上昇が指摘されている。私たちの次の世代を担ってくれる若い世代が社会にかかわり、活躍してくれるように貧困や孤立を防ぐということを研究テーマとして学んでいきたいと思う。

・ 人口の減少に歯止めをかけるには若い世代が子供を産み育てられる健全な家庭環境が大事である。そろそろ政治や行政が家庭環境にも関与していかないことには、人口減少に歯止めがきかない状況になりつつある。これまでの住宅政策が親と子世帯の同居の妨げとなっていたり、地域の高齢化を招いてしまっている面がある。地域にいろいろな世代が暮らし、お年寄りと若い人たちが交流できるようになれば、孤立もある程度防ぐことができたり、お互いに見守り合うということにもつながるのではないか。

・ 日本の子供の貧困率はOECD諸国と比べてとても高く、国の教育にかける予算も本当に低い。教育などにより子供に対する貧困の連鎖を断ち切ることがとても大事なことだと思う。特に子供に焦点を当てつつ、将来にわたって孤立を防ぐ地域づくりという視点で考えていきたい。

・ ことしは特に未成年、または児童に関する孤立問題に着目していくべきではないのか。日本人は子供の読み書き、識字率が高いことが当たり前のように感じているが、実は当たり前でないのかもしれないし、しっかりとした読み書きをするということは人間が社会で生き抜くための力になることから、そういったことを改めてもう一度調査・研究していくのも、重要なことではないか。

・ 中学校3年生ぐらいまでの子供たちに焦点を向けていきたい。子供の社会的な孤立の背景には、社会的なひずみがあると考えている。そのため、子供たちに対する社会のかかわり方やフォローの仕方が大事ではないか。学校と家庭以外にも社会的なチャンスを与えられる環境の整備ということに視点を当てていきたいと思う。

・ 今年度、横浜市では子供の貧困対策の計画を立て、対策が固まる年である。そこで、私たちとしては地域で何ができるのか、行政と地域の連携が子供の貧困に対してどのようなことができるのかを考えていけば、総合的な議論ができるのではないか。

・ 南区では地域を回っていると外国籍の方が多い。外国籍の子供には、言葉の壁や金銭面的な壁、子供の貧困や孤立という話をよく耳にする。そのような子供たちが勉強できる環境を整えていきたいと考えており、当委員会でもそのような議論をしていきたい。

・ 子供たちはみずから助けを求めることができない。新聞等で報道されているとおり、児童の虐待問題に歯止めのかからない現状がある。児童虐待の問題も、家庭が孤立していることや、望まない妊娠や出産後の相談先がわからないといったことも原因だと考えている。児童の虐待問題などは待ったなしの状態であり、低年齢層に着目して調査・研究を進めたいと考えている。

・ 子供は全ての孤立の最初のスタート地点にあるのではないか。当委員会は孤立の予防という視点で若者の就労支援などもこれまで調査・研究してきたが、さらに若い世代の子供の時に対策を取ることが孤立の予防にもつながっていくと思うので、その点を調査・研究していくべきではないか。

・ ひとり親家庭の貧困率は世界の中でも本当に厳しい状況にある。子供たちがなぜそういう状況に置かれているのかと原因を分析する中で、子供に関するさまざまな問題について、起きてしまったことに対する課題対応型ではなくて、未然に防ぐ研究もしていくべきではないか。

・ 孤立を防ぐ地域づくり特別委員会の付議事件については幅広い課題があると思う。現在、日本の子供の6人に1人は貧困家庭と言われているが、原因は何かということを追求しないといけない。

(2)平成27年7月14日 委員会開催

ア 平成27年度の委員会運営方法について

調査・研究テーマ「横浜市における子供の貧困の予防・解決に向けた取り組みの方向性について」を決定した。

イ 子供の貧困対策について

子供の貧困対策に関し、国が制定した法律及び大綱と本市における子供の貧困に関連する施策等について、所管局から説明を聴取し、意見交換を行った。

【所管局】

こども青少年局、健康福祉局、教育委員会事務局

【当局説明】

子どもの貧困対策に関する国の動き

(ア) 子どもの貧困対策の推進に関する法律の制定

国の調査によれば、日本の子供の貧困率は16.3%である。2010年のOECD加盟国の子供の貧困率を低い順から並べると34カ国中25位であり子供の貧困の状況は先進国の中でも厳しい状況にある。また、生活保護世帯の子供の高等学校等進学率は、子供全体の進学率と比較して低い水準である。このような事情等を背景に、子供の将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、貧困の状況にある子供が健やかに育成される環境を整備するとともに、教育の機会均等を図るため、子供の貧困対策を総合的に推進することを目的とし、国及び地方公共団体の責務、子供の貧困対策を総合的に推進するために講ずべき施策の基本となる事項その他事項を定めた子どもの貧困対策の推進に関する法律が平成25年6月に成立し、平成26年1月17日に施行され、続いて平成26年8月に子供の貧困対策に関する大綱を策定した。

(イ) 子どもの貧困対策の推進に関する法律の概要

① 目的

子供の将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、貧困の状況にある子供が健やかに育成される環境を整備するとともに、教育の機会均等を図るため、子供の貧困対策に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにし、及び子供の貧困対策の基本となる事項を定めることにより、子供の貧困対策を総合的に推進することを目的とする。

② 基本理念

子供の貧困対策は、子供等に対する教育の支援、生活の支援、就労の支援、経済的支援等の施策を、子供の将来がその生まれ育った環境によって左右されることのない社会を実現することを旨として講ずることにより、推進されなければならない。また、国及び地方公共団体の関係機関相互の密接な連携の下に、関連分野における総合的な取り組みとして行われなければならない。

③ 国等の責務

・ 国は、基本理念にのっとり、子供の貧困対策を総合的に策定し、実施する責務を有する。

・ 地方公共団体は、基本理念にのっとり、子供の貧困対策に関し、国と協力しつつ、当該地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

・ 国民は、国又は地方公共団体が実施する子供の貧困対策に協力するよう努めなければならない。

(ウ) 法に定める基本的施策

①  国による次の事項を定めた子供の貧困対策に関する大綱の策定

・ 子供の貧困対策に関する基本的な方針の策定

・ 子供の貧困率、生活保護世帯に属する子供の高等学校等進学率等子供の貧困に関する指標及び当該指標の改善に向けた施策

・ 教育の支援、生活の支援、保護者に対する就労の支援、経済的支援その他の子供の貧困対策に関する事項

・ 子供の貧困に関する調査及び研究に関する事項

② 都道府県子どもの貧困対策計画

都道府県は大綱を勘案して、当該都道府県における子供の貧困対策についての計画を定めるよう努めるものとする。

③ 教育の支援

国及び地方公共団体は、就学の援助、学資の援助、学習の支援その他の貧困の状況にある子供の教育に関する支援のために必要な施策を講ずるものとする。

④ 生活の支援

国及び地方公共団体は、貧困の状況にある子供及びその保護者に対する生活に関する相談、貧困の状況にある子供に対する社会との交流の機会の提供やその他の貧困の状況にある子供の生活に関する支援のために必要な施策を講ずるものとする。

⑤ 保護者に対する就労の支援

国及び地方公共団体は、貧困の状況にある子供の保護者に対する職業訓練の実施及び就職のあっせんその他の貧困の状況にある子供の保護者の自立を図るための就労の支援に関し必要な施策を講ずるものとする。

⑥ 経済的支援

国及び地方公共団体は、各種の手当等の支給、貸付金の貸付けその他の貧困の状況にある子供に対する経済的支援のために必要な施策を講ずるものとする。

⑦ 調査研究

国及び地方公共団体は、子供の貧困対策を適正に策定し、及び実施するため、子供の貧困に関する調査及び研究その他の必要な施策を講じるものとする。

(エ) 子供の貧困対策に関する大綱

①  目的・理念

子供の将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、また、貧困が世代を超えて連鎖することのないよう、必要な環境整備と教育の機会均等を図ること。また、全ての子供たちが夢と希望を持って成長していける社会の実現を目指し、子供の貧困対策を総合的に推進すること。

②  基本的な方針

貧困の世代間連鎖の解消と積極的な人材育成を目指す。第一に子供に視点を置いて、切れ目のない施策の実施等に配慮し、子供の貧困の実態を踏まえて対策を推進することなど、10の基本的な指針が定められている。

③  子供の貧困に関する指標

子供の貧困率や生活保護世帯に属する子供の高等学校等進学率などの生活保護世帯の子供に関する指標など全部で25の指標を定めている。

④  指標の改善に向けた当面の重点施策

・ 教育の支援は、学校をプラットフォームとした総合的な子供の貧困対策を展開し、貧困の連鎖を防ぐための幼児教育の無償化の推進及び幼児教育の質の向上、就学支援の充実、大学等進学に対する教育機会の提供、生活困窮世帯等への学習支援などに取り組む。

・ 生活の支援は、保護者の生活支援、子供の生活支援、関係機関と連携した包括的な支援体制の整備、子供の就労支援、支援する人員の確保などに取り組む。

・ 保護者に対する就労の支援は、親の就労支援、親の学び直しの支援、

就労機会の確保に取り組む。

・ 経済的支援は、児童扶養手当の公的年金との併給調整に関する見直しのほか、ひとり親家庭の支援施策についての調査・研究の実施に向けた検討、母子福祉資金貸付金等の父子家庭への拡大などに取り組む。

⑤  子供の貧困に関する調査研究等

子供の貧困の実態等を把握・分析するための調査研究、子供の貧困に関する新たな指標開発に向けた調査研究及び子供の貧困対策に関する情報の収集・蓄積、提供に取り組む。

⑥  施策の推進体制等

国における推進体制、地域における施策推進への支援、官公民の連携・協働プロジェクトの推進、国民運動の展開、施策の実施状況等の検証・評価、大綱の見直しに取り組む。

【本市の主な事業・取り組み】

現在の本市の事業のうち、大綱の重点施策に沿ったものは次の表のとおりである。(表はそれぞれ平成27年7月14日孤立を防ぐ地域づくり特別委員会資料から抜粋。)なお、今後は本市においても子供の貧困に関する実態を把握するための調査等を行うとともに、有識者の意見もいただきながら、子供の貧困対策に関する計画の策定に向けた検討を進めていく。

【委員意見概要】

・ 子供の貧困問題については個人的にも長年取り組んできた分野でもあり、子供の環境、特に貧困層にある子供に対して何かフォローをしていきたいと思っている。まだまだ私たちの目に見えていないたくさんの課題があると思うので、実態を把握し研究していきたい。

・ 横浜市の子供の実態把握の方法として24歳未満の子供のいる世帯に対してアンケート調査を実施する予定とのことだが、本市の子供たちの貧困率と全国の比率との比較や、大綱に示されたさまざまな指標などが、きちんと数字として捉えられるほうが具体的な対策によりつながっていくと思う。

・ 横浜市には、学習支援や就労支援のほか、子供食堂を開催している市民やNPOの支援団体がたくさんある。そういった団体の方の意見を広く拾い上げてほしい。保育園などの子育ての現場では、子育てがつらいという相談を受けた。よく話を聞いてみると、貧困状態にあったという事例もあり、例えばシングルマザーなどの実態に沿ったサポートをきちんと受けられているのかということも含めて、福祉や子育ての現場の方の意見も聴取してもらいたい。そのほかには、学習支援の対象外となっている高校生たちの声も拾ってほしい。

・ 寄り添い型学習等支援事業はとても大切だと思っている。地元の区ではこの事業により高校への進学など成果も上がっているため、事業を拡充して受講者の定員をふやしたそうだが、教師役の学生のボランティアの確保が追いついていないことが大きな課題となっている。また、バスを乗り継いで1時間以上かけて来て、夜の6時から8時まで勉強し、また1時間かけて家に帰る子供もいるとのことである。今後、学習支援事業は拡大していくべきだと思っているのが、定員オーバーにより待機になっている状況などをもう一度正確に把握するとともに、教師役には大学生だけでは限界があるため、退職した教職員にも事業への参加を呼びかけてほしい。

・ 寄り添い型学習等支援事業はとても大事な事業だと考えている。実体の把握とともに予算の拡充を強く要望したい。また、就学支援関係での市民の方の御相談では、就学支援という課題を1つクリアし、しばらくしてからまたお会いすると生活がもっと大変になっていたことがあった。背景にはDVや多重債務などがあったようで、1つの御相談からその方が抱えている困難というものが実はいろいろあることがわかる。そういう意味では、行政は当初の相談で支援メニューを提供することはできるが、背景にある複雑な問題まではなかなか気づきにくいし、相談者も窓口ではお話されない。国の大綱にもいろいろな事業があるが、それが1人の要支援者に結びつかなければ、なかなか効果は現れない。本市の貧困対策の計画の策定とあわせて担当窓口での相談の仕方にもう少し工夫をしていく必要があると感じている。

・ 相対的貧困の基準が平均所得の半分以下とのことだが、そこから抜け出すことが、まずは大事なことではないか。現金を支給して支援するということも、そればかりでは余りいいとは思わないが、目指してほしい。

・ 貧困家庭の子供たちに対しては負の連鎖を断ち切ることが大事である。学力を上げて、しっかり仕事をしてもらい、収入が上がれば、その次の世代の子供たちは貧困家庭から脱するということにつながると思う。いろいろな市立の高等学校があるので、それぞれの学校の特色を生かし、生徒の得意分野を伸ばす教育をぜひお願いしたい。

・ 貧困対策が何でも税金を原資に横浜市の予算で手当することばかりがいいとも思わない。例えば、児童養護施設を寄附の窓口とし、寄附に対して税控除が受けられるような仕組みもぜひ検討してほしい。

・ 今年度から区における地域と学校の連携を支援する体制を強化したとのことであるが、区役所だけにそういう部署ができても、多人数の体制ではないから全ての子供をフォローするのは難しいだろう。地域で若者の支援を一生懸命取り組んでいるNPO等に任せっきりになっている部分もあるのではないかと感じている。地域と学校の連携を担う部署の職員がつなぎ役としてきちんと機能し、子供たちが情報を理解できずうまく活用できないということがないようにするため、始まったばかりの体制ではあるが、しっかり取り組んでもらわなければいけないと思う。

・ 子供の貧困対策ということで、制度の構築など形としては一つ一つやっているのはわかるが、それが子供たちの実態に合致しているか、子供への支援にきちんとつながっているということまでフォローしていく必要がある。そのための実態把握は本当に大事なことだと思う。

・ 国が制度を改正することで基準が変わり、前年までは受けられていた支援が受けられなくなったり、親が必要な書類をそろえられなくなったりしている実態があるので、子供たち本人にも自分や親の生活の状況のほか、自分の未来や将来について思っていることを聞いてみる調査をぜひしてもらいたい。

・ 今不登校の子供がふえていると思うが、不登校と貧困には強い因果関係があるのでないか。不登校とは負の連鎖の1つのあらわれであり、例えば中学で不登校になると義務教育を受けずに社会に出てしまうことになり、それが負の連鎖となっていく1つの要因なのではないかと思うので、学び直しの場所の提供という視点も入れて不登校と貧困の因果関係について調査してもらいたい。

・ 国も横浜市も子供の貧困対策にしっかりと取り組んでいくという姿勢がはっきりと見えて大変期待しているが、子供の貧困対策に直接結びつくものとして、中学校での給食、広く活用できる高校の奨学金の実施、国に対して教育予算の拡充を求めていくことが必要である。あわせて、子供の貧困対策を支援している団体の職員が安心して支援を継続できるように働き方や雇用の支援する予算の拡充もしてほしい。

・ 子供の助けを求める声を地域の大人がキャッチして、それを必要な支援につなげるということが大事で、そのためには大人同士が地域でしっかりとつながっていることも必要である。それが子供の貧困をキャッチして支援につなげる私たち市民にもできることだと思うので、親などが地域とのつながりを保てるように行政はそこに着目した対策もする必要があるのではないか。

・ 現在ひとり親の貧困率が平成24年の数値で54.6%ということだが、他の自治体では、ひとり親世帯のうち母子家庭と父子家庭の割合を調査しているところもあるため、今後の調査に定量分析として行ってほしい。

(3)平成27年9月11日 委員会開催

ア 参考人の招致について

調査・研究テーマに関連して、参考人を招致し、次回委員会で講演をいただくことを決定した。

(ア)参考人:首都大学東京教授

社会保障審議会生活保護基準部会委員

横浜市子どもの貧困対策に関する計画策定連絡会委員

阿部 彩 氏

(イ)案件名:子供の貧困問題と対策について

(4)平成27年9月30日 委員会開催

子供の貧困問題と対策について

参考人として、首都大学東京教授の阿部彩氏を招致し、子供の貧困問題と対策について講演をいただいた後、質疑を行った。

【講演概要】

ア 日本の貧困の状況

・ 日本では2012年時点で18歳未満の子供の貧困率が16.3%、社会全体の貧困率が約6人に1人という状況である。

・ 日本の社会の貧困というのは、2000年代後半のリーマンショックや大不況と呼ばれた2008年から2009年ごろに急に発生した問題ではない。1985年時点では、日本で貧困問題はおろか格差問題も論じられておらず、日本が格差社会であるという認識は一般的には全くなかったと思うが、そのときでさえ子供の貧困率は10.9%で、10人に1人であるから、決して少ない数値ではない。

・ 貧困問題が日本のマスコミ等に取り上げられるようになってきたのは2009年以降であるが、決して2009年以降に急に貧困率が悪化したのではない。長期的に見ると、景気が回復し、若干貧困率が下がるときがあっても、貧困率は右肩上がりで上昇してきた。つまり、子供の貧困問題、また貧困問題全体は今の政策をそのまま続けていても絶対に解決しない問題といえる。

・ ひとり親世帯の貧困率が非常に高くなっている。それまで減少ぎみであった貧困率が、2009年から2012年にかけて4%以上の上昇に転じている。これは非常に大きい数値であり、子供のいる世帯の中でも特に困難な状況を抱えている方が、さらに困難な状況になっているということが最新の数値からもわかる。

・ 1985年時点の貧困率は、若い世代で若干グラフが小山になる程度で、高齢期になって急に上昇していた。2012年では全く異なり、約30年間で貧困の対象が大きく変わったことを認識しなければいけない。年金が多くの高齢者をカバーするようになり、高齢者の貧困問題は改善された。ある意味でこれは日本の社会保障が成熟してきた一つのあらわれである。ヨーロッパ等では30年、40年も前からある若者の失業問題や貧困問題が日本にも見えるようになってきた。

イ 世帯で分析した子供の貧困状況

・ 子供を世帯タイプに分けると、圧倒的に多いのが夫婦と未婚子のみという核家族の世帯である。このタイプの貧困率が徐々に上がってきことが子供の貧困率を押し上げている一番大きな要因である。

・ 貧困の子供イコールひとり親の子供というイメージがとても強いと思うが、実は貧困の子供の中でひとり親世帯の子供は3割程度しかいない。確かにひとり親と未婚子のみの世帯の貧困率が非常に高いので、この世帯タイプがふえることによって子供の貧困率全体も上昇するが、全体に与える影響はそれほど大きくない。子供の貧困率の上昇は、ひとり親と未婚子のみの世帯の貧困率の上昇だけで説明できるものではなく、それほど上昇しているように見えないものの夫婦と未婚子の層の貧困率が2006年から2012年にかけて9.6%から11.4%にじりじりと上昇していることが一番大きな要因である。

ウ 晩産化・少子化の影響・ これは対策としては非常に大きな問題である。ひとり親世帯に対しては児童扶養手当や親の就労支援などさまざまなものが用意されている。それでもこの世帯の貧困率が50%以上なので、まだ十分とは言えないと思うが、制度のメニューとしてはいろいろなものを挙げることができる。しかし、二親の貧困の世帯に関しては、日本の社会保障制度の中では児童手当や生活保護しかなく、生活保護は受給率が非常に小さいので、それほど大きな支援になるわけではないと考えると、社会保障として非常に手薄い。

・ 現在の三世代同居の世帯は場合によっては晩産化、少子化の影響で母親が家で介護と育児の両方をするダブルケア状態で、父親一人の収入で家計を支えなければならず、決して安泰といえる世帯ではなくなってきている。

・ 20歳で自立できる子供が少なくなり、扶養家族として養っている状況がふえている。子育ての長期化も子供の貧困率に影響してくるので、晩産化の影響がいろいろなところに出ている。

エ  家計にみる貧困の実態調査

・ 過去1年間で金銭的な理由で家族が必要とする食料が買えなかったことがあるかという調査では、社会全体では、よくあったと答えたのが1.6%でそれほど多くない。それでも1.6%というのはほぼ生活保護受給率と同じくらいで、世帯数でいうと少なくない。子供がいる世帯では特にひとり親世帯は三世代の世帯で3.5%、二世代の世帯で3.8%である。時々あった、まれにあったまで含めると、かなり多くの世帯で食料さえも困窮しているというのがわかる。二親世帯の二世代世帯が普通一番多い世帯だが、まれにあったと回答したのは9.9%で1割になる。

・ 金銭的な理由による公共料金の未払い調査では、ひとり親世帯は断トツで多いが、そうでない世帯においても4%から5%の家庭においてガスや電気、電話などの公共料金を払えなかったという結果がある。家計の状況はかなり厳しいことがわかる。

オ 貧困が子供に及ぼす影響

・ 親の学歴と子供の学歴にも非常に高い相関関係がある。

・ 小学校6年生の全国学力・学習状況調査の結果を親の所得とクロスして見ると、はっきりと相関関係にあることがわかる。また、どの所得層においてもたくさん勉強すればするほど、学校のテストの点数は高くなるが、一番所得が低い層の家庭で勉強時間が3時間以上の子供の平均点は、一番所得が高い層で1分も勉強をしていないという子供の平均点より低い。つまり、努力で挽回することができないほど所得階層による差がついてしまっていることがわかる。そのような結果になる理由について、食生活、医療、健康の問題のほかに、勉強机や辞書、インターネット環境の有無といった家庭環境の問題など、そういったさまざまな問題があると思われる。

・ 子供を低所得、中所得、高所得に分け、過去1年間の医療機関の受診状況を調べた、医療に関する大阪市の公立の小中学校の9000人に対するアンケート調査によると、受診できなかった理由には所得階級で圧倒的な差があった。低所得層では公的医療保険に未加入、または公的医療保険には加入しているものの、自己負担金を支払えないといった理由が圧倒的に多い。多忙で医療機関に連れていく時間がないという理由はどの所得層でも同じぐらいの割合である。金銭的な理由で医療機関を受診できなかった、しなかったといったことは低所得層に非常に多く発生している。

・ 医療機関に行けないということは、実際に子供の健康にも影響している。厚生労働省が行っている大規模な子供の調査で、1歳から6歳児のときまでのぜんそくで通院した割合を所得階層別に見ると、最貧層とそれに次ぐ低所得層のほうが圧倒的にぜんそくで通院、入院する割合が高くなる。これは子供の健康の格差の問題が、ただ単に医療費が払えないというだけではなく、そのほかの理由にも起因している。ぜんそくは、どの先進諸国でも子供の健康格差の第1位に出てくる。その理由は、住環境が非常に悪いので子供はぜんそくになりやすいことがある。また入院するようなかなり重い病気になることも、低所得層のほうが多いということがある。

・ OECDのデータによれば、日本の子供はほかの国の子供に比べて圧倒的に孤立している、少なくとも孤独と感じている。日本の子供の3割が自分は孤独と感じると答えた。貧困の影響は自己肯定感にも非常に強くあらわれてくる。先ほどの大阪市の調査では、自分は価値のある人間だと思うかという問いに対して、そう思わないと答えた子供は貧困層では25%いた。中学2年生で4人に1人である。非貧困層でも17%いる。中学校2年生で自分は価値のある人間だと思わないと言っている子供がおり、所得階層によって差がある。これは、夢がないと答える割合にもつながってくる。中学校2年生になると将来の夢を問われても、ないと答える子供が貧困層で44%と半数近くになる。非貧困層でも38%いるが、貧困でない子供たちは夢が具体的に何も思いつかないというのが一番多い理由である。貧困層の子供では、どうせ夢はかなわないと答えている子供が多い。

・ 貧困層の子供は、本当にさまざまな問題を複合的に抱えており、ただ単に学力を上げるために学習支援だけをすれば何とかなるという問題ではないだろう。親のことも含めてその世帯が抱えているさまざまな問題を支援していく必要がある。孤立という観点から言えば、親の孤立も非常に厳しくなってきている。貧困層の親には子供の悩み事について相談できる相手がやはり非常に少ない。親自身がコミュニティーの中で孤立しており、それが子供の孤立にもつながり、さまざまな問題が複合的に発生してしまっている。

カ 対策

・ 子供に限らず全ての貧困対策に言えるが、子供の貧困対策として防貧という観点からの川上対策と、もう既に起こってしまった貧困に対する川下対策の2つがある。

・ 代表的な川下対策は生活保護である。

・ 一番効果があるのは川上対策で、そもそも貧困を発生させないようにする。学習面で言うと、学力が低いままで後から支援しなければならないという状況をつくらないのが一番の予防かと思う。例えば、九九などのつまずきを放置せず、そういった問題を小学校の低学年の段階でなるべく早く発見し、学力格差が起こらないようにすることが一番大切なことだろう。

・ 貧困の世帯を支えるのに一番有効なのは再分配政策である。日本は国の政策として、再分配機能が非常に弱い。政府が富める者からより多くをとり、貧しいところに再分配すると考えるのであれば、再分配前の貧困率のほうが高く、再分配後の貧困率のほうが低いはずである。実際に日本以外の全ての国ではそうなっている。ところが、日本ではこれが逆で、再分配後のほうが貧困率が高くなっている。1980年代のデータが存在するときから実はずっとこの状況だった。その一番の端的な原因は社会保険料の設定にある。つまり、税金ではなく社会保険料で軽減措置が適切にとられていないために、貧困線ぎりぎりの世帯は持ち出し分のほうが多く、貧困線を下回ってしまう。この状況は、生活保護層や児童扶養手当が満額で支給される年収130万円レベルの世帯ではない。もう少し収入は多いものの4人世帯で240万円ぐらいの貧困線ぎりぎりの世帯では、社会保険料の支出まで含めると、後に児童手当などで返ってくるにしても収支がマイナスになってしまう。社会保障制度の負担をどこに求めるのかということについて、根本的に考え直さなければいけないことの一つかと思う。

・ 子供の貧困率がなぜこんなに悪化しているかというと、やはり再分配前の貧困率が上がっていることが一番大きな理由になる。日本もグローバル化社会の影響を受けて、ほかの先進諸国と同様に再分配前の市場所得に非常に格差がつくようになってきてしまった。若干、再分配機能が改善されるようになったが、それでもまだまだ不十分である。

・ 政策の選択肢としてはまず対象者の選定がある。所得制限か年齢制限を設けるのか、各世帯ごとの給付にするのか、それともそのほかのプライオリティーで選ぶのか。例えばイギリスでは各小学校地区、中学校地区レベルの細かい単位で貧困率を計算しており、貧困率が高いところに自治体がより多く予算を配分している。アメリカの教育予算でも学校ごとに子供の貧困率を計算し、貧困率が高いところにより多くの教育予算を割くという政策をとっている。日本でも学校ごとに就学援助比率がわかるので、状況の厳しい学校により多くの教員を加配するという策がとられている自治体とそうでない自治体では貧困による子供の状況が違うのではないか。貧困対策として、そういうことも可能である。

・ また、大きな問題としてあるのが、現金給付をするのか、現物給付をするのか、また教育をするのか、医療をするのか、生活支援をするのかということである。貧困世帯の子供として一番多くイメージされるのは生活保護受給世帯の子供たちだろう。しかし、生活保護を受給している貧困の子供たちは、子供たち全体の中でそれほど多くない。貧困状況にある子供は2012年で約326万人と推測されるが、それに対して日本全国で生活保護受給世帯の子供たちは29万人で、約10分の1以下である。例えば国の政策には児童養護施設の子供たちの進学率を高めると書いてあるが、全国的に見れば生活保護受給世帯の10分の1の人数で、2.9%。大目に見て貧困の世帯の子供たちの100分の1ぐらいである。母子世帯の子供たちは貧困の子供たちの中の約3割である。例えば児童養護施設に対してより多くの何かをするというのは、それはいいことだと思うが、それでも3万人なので、ほかの社会福祉策は少し手薄いかもしれないが違うものを行うというように相関して考えていかなければいけないのではないか。

・ 現金給付と現物給付の選択については、現金給付は特に日本で非常に嫌われる政策だが、親の収入は多かれ少なかれ子供の成長にプラスに影響する。これは欧米等での実験調査でも確実に効果があるということが証明されている。一方、質の高い現物給付も非常に効果があるということもわかっている。例えば就学前教育プログラムでは現金給付より高い効果が見られる場合もある。

・ 日本でよく言われることだが、現物給付には、現金給付と違い、親がもらったお金をほかのことに使ってしまう可能性が少ないという意味があるかもしれない。しかし、全く効果がない現物給付もたくさんあり、現物給付策は質が全てである。例えば食料支援に関しても、小麦アレルギーの子供のところに多量のパンを渡しても何の意味もない。もし親が現金をもらえれば、子供が食べられるものを買ったかもしれない。そういった意味で、教育も就労支援も、特にものだけではなく対人サービスは、どういうサービスが提供されているのかで効果が大きく変わってくる。場合によってはマイナスの効果となってしまう場合もある。質のコントロールは非常に厳しく見なければいけない。現物給付のほうがコストが安いと思ったら、これは絶対間違いだろう。質をコントロールすることと質の高いものを提供するというマインドで行わないと、現物給付というのは非常に問題のある政策になり得る。

・ そういった意味で所得というのは簡単である。もちろん100人に給付して全員がうまくその所得を使えるかどうかはわからない。しかし、9割方はうまく使うだろう。もちろん必ずしも親が高所得でも子供のためによい消費パターンがあるとは限らないが、全体的に見ると、やはり所得というのは効果があることは立証されており、現物給付と現金給付の両輪が必要だと思う。

・ 今の日本の国の政策は現物給付、特に教育だけに偏っていて、例えば学習支援の場を用意していても、子供が夕御飯なしにそこに来ていることについては、全く配慮がなかったりする。家に帰ったら勉強机もなく、辞書も買えない状況を支援する施策が非常に少ない。現物給付と現金給付の両輪が必要だと思うし、特に現金給付は就学前の児童に対する効果が一番大きい。

・ 低所得の影響が一番大きく出るのが就学前の6歳前である。6歳までの情緒の期間に子供が安定的でゆとりある生活の中で暮らすことは非常に重要である。例えば小さい子がお絵かきでぐちゃぐちゃなものを書いてきて、それをよく描けたねといって褒めてもらえることは子供の成長にとってすごく重要なことである。そういった経験を積み重ねていくことによって、自分は頑張れば何とかできるんだという意識につながっていく。親がカリカリしていて、クレヨンも紙も買い与えることができない。ゆとりがあるというのはぜいたくでなくてもいい。親が普通の生活を送れる、それを保障するということが非常に重要かと思う。

・ 妊婦の時点でストレスが高い環境にいると、子供の発達への影響で、明らかに脳の中で分泌されるストレスホルモンなどが高い子供に育ってしまう。母親がとてもストレスの高い状況にさらされ続けていたということで、胎児のときからそのような脳になってしまっているようだ。そういったところまで考えていくと、早い時点での介入が非常に必要だろう。

キ 自治体がとりうる対策

・ 早い時点から介入できるという点では、自治体が貧困世帯に一番近いところにいる。全ての自治体で母親が妊娠したときに母子手帳を渡すから、これは母親に接触する非常に大きなチャンスである。

・ 保育所では家庭の経済状況を把握するので、現場で母親の疲れている様子や、子供の衣服の様子などから保育士はすぐ家庭の生活が荒れているのがわかる。そういったところからいかに支援につなげていくか。子供の貧困問題に対して総合的な窓口をつくっていくというのは非常に重要である。

・ 現在、困窮者自立支援法が施行され、そういった総合窓口をつくるという方向にあるが、就職に関するものに目が行きがちかと思う。子育て世帯に対してどういった支援が必要なのか。就労支援なのか、親の失業や鬱のときには精神的な支援が必要かもしれないし、もしかしたら一時的に生活保護が必要かもしれない。貸付金で何とかなる問題なのかもしれない。そういった各部署で支援をつなげていく体制が必要ではないか。税、国民年金、国民健康保険といった部署も実はSOSを把握するのに非常によい窓口である。これらが払えていないということがまずSOSの一つで、その世帯に子供がいるかという観点で見てほしいと思う。学校ではなかなか見えにくいことでも、自治体の窓口からいろいろわかることがある。

【委員意見概要】

・ 支援する側の行政のさまざまな施策は部署による縦割りではなく、子供や家庭から見た視点で総合的にまとめていかなければ子供の貧困問題に対処していくのは難しいのではないかと思った。

・ 低所得世帯で一生懸命勉強している子供の学力が、高所得世帯で全く勉強をしない子供より低いことにはショックだった。

・ 望ましくない家庭や学校の環境にあっても、子供にいい影響を与えられる人が親や教師以外にもいればその子供の人生も変わっているのではないか。社会の中でそのような仕組みをつくっていくことが大事である。

・ 雇用形態が多様化しているが、経済的に自立した生活を送れるように非正規雇用等の働き方について考え直さなければならないし、働く場所も確保していかなければならないと思った。

(5)平成27年12月1日 市内視察実施

母子生活支援施設カーサ野庭及び金沢区寄り添い型学習等支援事業横浜いろは塾を視察し、困難を抱える世帯に対する自立促進の支援や学習支援等の様子や現状について説明を聴取した。

(6)平成28年2月9日 委員会開催

ア 横浜市子どもの貧困対策に関する計画(素案)について

横浜市子どもの貧困対策に関する計画(素案)について、こども青少年局から説明を聴取し、質疑を行った。

【出席局】

こども青少年局、健康福祉局、教育委員会事務局

イ 調査・研究テーマ「横浜市における子供の貧困の予防・解決に向けた取り組みの方向性」について

委員会報告書構成案について委員長が説明を行い、報告書のまとめに向けて各委員が調査・研究テーマに対する意見を述べた。

【当局説明】

横浜市子どもの貧困対策に関する計画(素案)

横浜の将来を担う子供の育ちや成長を守るとともに、家庭の経済状況により養育環境に格差が生まれたり、就学の機会や就労の選択肢が狭まったりすることなどにより、貧困が連鎖することを防ぐために実効性の高い施策を展開し、支援が確実に届く仕組みをつくることを目的として計画を策定する。

(ア) 計画の位置づけ

本計画は、国が策定した大綱を踏まえつつ、昨年度策定した横浜市中  期4か年計画や横浜市子ども・子育て支援事業計画、第2期横浜市教育振興基本計画における課題背景や基本的な考え方等をもとに、子供の貧困対策に資する取り組みについて改めて整理するとともに、本市としての基本目標や施策展開の考え方、今後5カ年で取り組む施策について示すものである。

(イ) 計画期間及び対象

計画の期間は平成28年度から32年度までの5年間である。対象は妊娠期から大学等を卒業した後の自立に向けた支援を含めた20代前半までで、現に経済的困窮状態にある子供や若者、家庭に加え、保護者の疾病や障害、ひとり親家庭など、困難を抱えやすい状況にある子どもや若者、家庭などを対象とする。

(ウ)経済的困窮状態や、困難を抱えやすい状況にある子ども・若者、家庭の状況等

① 支援につながっていない子ども・若者、家庭

保護者が支援を受けることを望まないなど、支援が必要な状態であっても、支援につながっていない子ども・若者や家庭がある。

② 子供の養育環境

保護者の健康状態や長時間の就労で、子供と過ごす時間が確保できないこと等により、子供の養育環境が十分に整えられていない場合がある。

③ 学習や進学の機会

落ちついて勉強できる環境が整っていないことや、学習の習慣が身についていないことなどにより、子供の低学力や学習におくれが生じている場合がある。また、必要な文具や教材が買えないことや、進学に際し、十分な機会を得ることが難しい場合がある。

④ 社会的な孤立

社会的に孤立して必要な支援を受けられず、一層困難な状況に置かれてしまう場合がある。保護者と支援者の関係が切れてしまうことで、子供に対する支援が届かなくなる場合がある。

(エ) 基本目標と施策展開に当たっての基本的な考え方

① 基本目標

横浜の未来をつくる子供や青少年が、自分のよさや可能性を発揮し、豊かで幸せな生き方を切り開く力、ともに温かい社会をつくり出していく力を育むことができるまちを目指して、子ども・青少年が健やかに育ち、自立した個人として成長できるよう、家庭の経済状況にかかわらず、教育・保育の機会と必要な学力を保障し、たくましく生き抜く力を身につけることができる環境を整えること。

②  施策展開に当たっての基本的な考え方

・育ち・成長と教育の機会を保証する環境づくり

・切れ目のない支援が届く仕組みづくり

・人材育成の視点と地域社会とのつながりへの配慮

(オ) 子供の貧困対策に関する取り組み

子供の豊かな成長を支える教育、保育の推進として、乳幼児期の教育・保育の保障と学齢期の全ての子供に対する教育の充実を子供の貧困対策の基盤として位置づける。

(カ) 5つの施策の柱(平成28年2月9日委員会資料)

【委員意見概要】

・ 計画の策定に当たり市民6000人を対象にしたアンケートを実施したとのことだが、回答数は恐らくそれよりも少ないと思う。これから計画に基づく施策を展開していく上で、今回のアンケート調査で終わることなく常に実態を把握しながら取り組んでほしい。また、支援者へのヒアリングは大変貴重な資料になると感じた。

・ 関係各局で実施している学習支援事業にはそれぞれ事業の目的と特徴があるため対象者を分けていることはよくわかるが、家庭状況や経済状況等で事業の対象者を分けていかなくてもいいのではないか。

・ バリアフリーな環境は障害のある、なしにかかわらず過ごしやすい空間であると言われているように、横浜市で子供の貧困対策にしっかりと取り組んでいくことは、本市の子育て支援や少子化対策にもつながり、施策としてユニバーサルデザインになるのではないか。

・ 盛岡では孤立の連鎖を防ぐ取り組みを以前から行っており、成功事例として、生活困窮世帯の子供が最終的には銀行に就職できて、御両親も生活支援から脱却することができたそうだ。生活の困窮という負の連鎖を断ち切るというのはそういうことだと思う。

・ 親や生活環境がどうであれ、子供が自立して生活することができるようにすることが学習支援事業に大切なことであり、一人一人の子供にとって何がいいのかということを考えてしっかり取り組んでほしい。

・ 教員はもともと子供たちを教育して、立派な大人に育てていこうという情熱を持っている。教員のOB・OGに担い手として学習支援事業に参加してもらうよう案内する仕組みがあってもいいのではないか。

・ 以前、公営住宅の家賃滞納により強制退去を迫られ、せっぱ詰まって子供の命を奪ったという事件があった。行政は複数の窓口で接触していたようだが、その家庭の実態を把握しきれていなかったと報道されていた。そのようなこともあり、貧困対策の計画で「気づく・つなぐ・見守る」の施策において取り組みの姿勢を寄り添いとしていることにとても安心した。行政がそのような家庭に踏み込んで寄り添って一緒に考えていくという思いが、こういう言葉にはあらわれていると感じた。計画の策定に当たって実施した調査は、今後の市政に大事な視点を教えてくれるものとなったのではないか。

・ 今回の計画には新しい取り組みや改革、人材の育成の視点が十分でないほか、計画の進捗を把握する事業の目標値も現状とほぼ同じであり、もう少し踏み込んでほしかったと思う。子供たちは横浜市にとって宝物である。きちんと成長し、将来は横浜市に税金を払えるような人材になってもらいたい。よって、他都市の先進的な取り組みでうまくいっているものはこの計画にとらわれず、積極的に取り入れていってほしい。

・ 晩婚化、晩産化と言われ、子供を産む年齢も高くなっていることから、子育てと介護のダブルケアという視点も必要である。子育てと介護はそれぞれ所管する部署は異なるが、両者ともに人生の一つの過程なのだから、一人一人に応じたオーダーメードという発想がとても大事である。本市は保育コンシェルジュという、いわゆるオーダーメードの仕組みをつくったから待機児童ゼロを達成できた。子供の貧困対策にもそういう取り組みをぜひお願いしたいと思う。

・ 貧困層にはひとり親世帯が多いが、ひとり親世帯だからこそ、親と子供が一緒にいられる時間が非常に重要だと考えている。親が経済的に苦しいため仕方なく働く方もいるが、親子が十分な時間をとれるような施策も必要ではないか。

・ 他都市の視察をして改めて感じたのだが、高校を卒業しなければ就職が難しいという実態がある。横浜市の子供たちはみんなが高校を卒業することを目標にしていろいろな施策をつくってもらいたい。高校を卒業できれば何とか就職はできるという希望を持てるような取り組みが大事なのではないのか。

・ 当委員会のことしの調査・研究テーマは非常に時宜にかなっていると思っているが、こども青少年局、健康福祉局、教育委員会事務局が協力して子供の貧困対策の計画をつくってくれた。今の子供たちが置かれている状況をしっかり把握するとともに、当委員会の委員の意見も今後の議会での審査などに生かしてもらえるとありがたい。

(7)平成28年4月20日 委員会開催

ア 調査・研究テーマ「横浜市における子供の貧困の予防・解決に向けた取り組みの方向性」について

委員会中間報告書案について、委員長が説明を行い、報告書を確定した。

5 調査・研究テーマ「横浜市における子供の貧困の予防・解決に向けた取り組みの方向性」のまとめ

貧困層にある子供は背景にさまざまな問題を複合的に抱えており、子供の貧困対策はそのような状況から抜け出すために世帯全体に即効性のある対策を講じることが必要であるとともに、そもそも子育て世帯が貧困に陥らないようにする予防的な対策の両方が必要である。しかし、実際には困難な状況にあっても行政や支援団体に相談できなかったり、相談できること自体を知らないため、行政や地域がまだ把握できていない貧困層の世帯も多くあるという認識のもと、次のことを提案したい。

(1)子供の貧困問題に対する継続したメッセージの発信

行政と地域と学校とが一体となって、子供の貧困の問題が重要であるというメッセージを常に市民に伝えていき、行政サービスが貧困状態に置かれている世帯にしっかりと行き渡るようにしていかなければならない。

(2)行政や支援団体等につながりにくい世帯の把握

さまざまな支援制度は申請主義が前提のため、なかなか支援を必要としている全員を把握できない。そのため、行政や支援団体も含めた地域が支援を必要とする世帯にいち早く気づくにはどのようなスキルが必要なのかを考えると同時に、身近にある学校や保育所、民生委員などの連携及び強化が必要である。

(3)子供が自分自身で助けを求められるようにするための支援

子供たちが横浜市で暮らす中で勉強に困ったり、生活に困っていると感じたら自分で助けを求められるように、どのような支援の仕組みがあるのかを学校で学んでもいいのではないか。

(4)貧困の負の連鎖を断ち切る施策の充実

もし、子育て世帯が貧困に陥ってしまったら、経済状況や養育環境の悪化で親から子へ貧困が連鎖することがないよう、生活支援策や教育支援策を今よりさらに充実させておくことが必要である。

(5)子供の貧困対策に関する施策を統括する部署の検討

子供の貧困問題はそれぞれの世帯状況などに応じた対策が求められることから、貧困状態の解消と予防策には施策も対象者も多岐にわたるため、困っていれば子供でも大人でも気軽に相談ができ、迅速な支援につなげるためにも将来的には各局区にまたがる施策を統括する部署の設置も検討されたい。

終わりに

さまざまな課題を抱えている世帯ほど行政や支援団体、地域とのつながりが弱く、そのため私たちの見えないところで子供たちの生活環境の中に貧困や虐待などが広がってしまっていると思われる。社会が今ようやく注目し始めた貧困は少なくとも1980年代から存在し、拡大してしまっていることから、子供の貧困問題は参考人の指摘にもあったようにこれまでの対策では解決が難しいものである。そのため、行政は貧困に陥っている世帯からの相談を待つことなく、積極的にかかわって貧困世帯に踏み込んでいくことが大事であり、そのための方法をこれから考えていかなければならない。非常に難しい課題であることはわかっている。しかし、それなしでは子供の貧困問題は解決しえないのではないか。本来の支援のあるべき姿とは、困っている子供がいるとき、その子供に対して何ができるのか、どのような支援の手を差し伸べることができるのかを考えていくことから始まるもので、既に用意されている制度への当てはめで終わってはならない。このたび、本市においては「横浜市中期4か年計画2014~2017」や「横浜市子ども・子育て支援事業計画」、「第2期横浜市教育振興基本計画」における基本的な考え方をもとに、今後5カ年で取り組む施策を子どもの貧困対策に関する計画にとりまとめ、これにより本格的な子供の貧困対策が始まるが、たとえ計画になくても他の自治体において具体的な成果に繋がった施策などは積極的に取り組んでいくべきであろう。横浜市は困っている子供たちに対し、決して支援の手を離さないという強い意気込みのもと、子供たち全員が自己を肯定的に捉え、そして将来の夢や目標を持てる社会の実現を目指し、子供の貧困対策に取り組んでいってもらいたい。

○ 孤立を防ぐ地域づくり特別委員会名簿

委員長  磯 部 圭 太 (維新の党)

副委員長  山 田 一 海 (自由民主党)

同    山 本 たかし (自由民主党)

委員  上 野 盛 郎 (自由民主党)

同    黒 川   勝 (自由民主党)

同    中 山 まゆみ (自由民主党)

同    斉 藤 伸 一 (公明党)

同    中 島 光 徳 (公明党)

同    伊 藤 純 一 (民進党)

同    麓   理 恵 (民進党)

同    山 浦 英 太 (維新の党)

同    白 井 正 子 (日本共産党)

同    み わ 智恵美 (日本共産党)

同    青 木 マ キ (無所属・ネット)
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